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by Sukeharu Kano / 狩野祐東 著書

納涼!クリエイターに必須のスキル

2013-07-25

前回の記事ではわたしのかんたんな自己紹介をしましたが、今回もその続き。のつもりで。


 むかしむかし、わたくし大学卒業後半年くらいしてサンフランシスコに行きました。コンピュータを使ってデザインしたり、たとえばWebサイトなどの操作性を良くするにはどうすればよいか考えたり、あるいはそういうのをどうすれば実現(コンピュータ用語的には「実装する」かな)できるか、そういうのを学ぶ学校に通うために。それからなんだかんだで4年弱、アメリカに住んでいました。

 いま思えば、せっかくの機会なんだから、もっと旅行したり、遊ぶのでもいいから見聞を深めればよかったなとも思いますが、わたくしほぼ部屋に閉じこもってパソコンばっかりやってました。これはどうやったら作れるのか、このサイトはどうやってこんなかっこいいことを実現しているのか、まあそういうことを延々と。白状するとゲームをやっている時間も長かったと思いますがとにかく1日中やってました。過去を振り返って思い出したことをこうして書くとさも研究熱心な人間のように聞こえますが、まあ、謙遜はしませんが事実として、わたしができることのどの分野にもわたしより優れた人がたくさんいて、身近な友達や先輩に限ってもかなりの確率でそういう人がいるのだから、まあ人々はそんなもんじゃないということなんでしょう。

 さて、夜中までひたすら自分のパソコンで何かやっています。で、まあ、寝ないわけにもいかないので直前までやってから急に寝る。

 すると。起こるんですよ金縛りが。

 最初のうちこれが金縛りという現象だと知らなかったのでかなり恐ろしい経験でした。頭の中の中央集権システムは手や足に「動け!」と指令を出しているのに奴らはほんとうにタンパク質でできた石のように動かない。そのうち全身が回転しだす。仰向けに寝たお腹あたりを中心軸にしてぐるぐるぅ、と遊園地のコーヒーカップに悪ガキと一緒に乗ってしまったような強力な遠心力。しかも、これもコーヒーカップ体験と同様、自分が回っているというよりは周りが回っているような感覚に陥り、地面に足がつかない感覚──はイコール背中にベッドの感触がない感覚──が起こります。自由が利かない世界と、もうこっちに戻って来られないんじゃないかという不安。感じたことのない恐怖が襲います。

 それは感覚的にかなりの時間続き、振り回す力はどんどん強くなり、ついにはコーヒーカップからはじき出されるんじゃないかと思うほどの勢いになります。そしてついに、危惧したとおり、やっぱり出てきちゃうんですよ。ただし体がベッドから転げ落ちるわけじゃあありません。何がでてくるの?

 たましいが。

 あはは。そのあとはいくつかのパターンがあって、天井付近からベッドに寝ている自分(の体)を見ていることもあれば、抜け出して浮遊する自分を寝ている自分が見ていることもあり、あるいは寝ているほうと飛び出たほうの両方の意識が混在する場合もある。どの場合も、目に映るものを自分とは別物とか、特異な物体とか、そういうふうに見ているのではなく、「あれはオレだ」と認識しています。それがたとえば平将門でないことははっきりしているので、両者には、いってみれば信頼関係のようなものがあります。抜けちゃってるのに、もしくは自分の体を外から見ているのに、通常は起こらないことなのに、その暗黙の信頼関係によって、金縛りで始まった一連の事件で初めてちょっと安心する。そして、安心すると収束するわけです。

 そんなことが毎日のように起こっていたのでこりゃ何か変だ、もしかしてスピリチュアル化? オレに限ってそれはありえん! ということで思い至ったのが寝る直前までやっているパソコン。そうか脳はベリーアクティブな状態でいきなり休もうとすると暴走しちゃうわけね。

 と、原因がわかったのにいまでも寝る直前まで何かやっています。最近は、寝ながらスマートフォン触ると脳が興奮するからダメだよ、なんてことがよくいわれていますが、そうです。恐い思いをしたくないなら止めておいたほうがいい。金縛りに遭います。

 過去に頻繁に金縛られ、いまでもときどき縛られますが、現在は、完全に回避しないまでも軽症で済ます方法を会得したので大丈夫。その方法とはですね、金縛りっていうのは予兆があります。来るぞ、来るぞって。そのとき、抵抗しないことです。全身から力を抜き、コーヒーカップが回るに身を任せている。すると、あんまり劇的な遠心力と恐怖感を体験せずにやり過ごせます。速力が最大までいかないから、離脱も起こりません。

 金縛り回避。HTMLより、Photoshopより、コンピュータを使うクリエイターには、もしかしたら必須のスキルかも。いえいえそのまえに。あんまり長時間の労働はおすすめしません。